今回は美容業界歴5年目の現役美容ナースである筆者が美容外科のナース業務を詳しく解説していきます。
この記事を読んでくれている方は「今は保険診療の病院やクリニックで勤務しているけれど美容の業界に興味があってどんなことをしているか知りたい」、「今は美容皮膚科のクリニックで勤務しているけれど美容外科も視野に入れて転職を考えている」など美容外科業界への転職に少なからず興味を持っている方が多いと思います。
もちろんクリニックによって異なる部分はたくさんあるのですが、今回の文章を読むことでざっくりとでも美容外科ナースの業務内容を把握することで転職後の働き方がイメージしやすくなると嬉しいです。
では本題に入る前に筆者の自己紹介を簡単にしていきます。
筆者の美容ナースになるきっかけは自身の肌のコンプレックスです。もともと思春期の頃から顔全体に広がるニキビに悩まされており、肌がきれいになりたいという願望がとても強かったように思います。
看護師になりたいと強い気持ちがあったわけでもなく流れで看護学校に進みました。看護学生の頃には皮膚科医が執筆した美肌になるための本を読み漁り、漠然と「私は美容の看護師になりたいかも・・・」と思い始めました。
しかし美容業界の看護師は未経験で採用してくれるところが少なかったため、まずは経験を積まなければと大学病院に新卒入職しました。すると慣れない仕事、慣れない夜勤でニキビはさらに悪化。なおかつ体重も半年で8キロも増加しました。
美容業界で働きたいのにそれから遠のくような見た目になってしまったわけです。その後も一定期間大学病院で勤務し、美容業界への転職を考えたときに「まずは採用されるような見た目にならなきゃ」と本気で生活習慣、食生活、スキンケアを改善し継続しました。
すると半年経過した頃から周りに「なんか肌きれいになったね」と言われるようになり、美容クリニックにも無事採用をしていただけました。マスクで常に隠していたくらいコンプレックスだった肌がきれいになることで気持ちが前向きになれることを自身でも心底実感し、同じように悩みを抱える人に対してきれいになるためのサポートができるよう美容ナースとして日々勉強を重ねていきました。
そして患者様の前向きになれた姿を見るごとにこの仕事にやりがいを感じ、美容ナースとして大手美容クリニックで美容皮膚科、美容外科の領域での勤務を経て、小規模クリニックの美容皮膚科、美容外科、脱毛専門クリニック等での経験を重ねて現在に至ります。
美容外科ってどんなことをするの?
それではここから本題へと入っていきます。そもそも美容外科では一体どんなことをしているのでしょうか。美容外科は外科と名前がついている通り、美容整形手術をメインとしています。
そして保険診療ではなく自由診療で対応することがほとんどのため、クリニックによってかかる費用や提供するサービスが大きく異なるという特徴があります。そのため保険診療を行う病院・クリニックと比較すると「おもてなし・接遇」といったところに重点が置かれているのも特徴の一つです。
保険診療と自由診療の違いは?
保険診療と自由診療の違いをご存知でしょうか。
保険診療では「病気を治すこと」を目的としています。そのため医療者側が提供するのは患者さんが感じている症状を改善するための治療になります。
一方で自由診療では「患者さんの希望を叶えること」を目的としています。そのため手術自体は成功していても、患者さんが希望していたものと違う仕上がりになればそれは失敗と判断されます。よって手術の前に患者さんの考えや希望のヒアリングを入念に行い、患者さん側とクリニック側、双方の認識にずれが生じないようにすることが非常に重要となるのです。
例えば目を開く筋肉の働きが弱く、目が開きにくくなる「眼瞼下垂症」という病気があります。患者さんの希望が「目の開きがよくなればいい=症状の改善を望む」のであれば保険診療での手術となります。しかし「目の開きはよくしつつ、二重の幅はこのくらいで平行型の二重にしてほしい=理想の形に整えてほしい」のであれば自由診療となり、同じ手術でも患者さんの要望に合わせて変わってくるのです。
美容外科は患者さんの希望を叶える場所
一言で表現するならば美容外科は患者さんの希望を叶える場所です。
美容皮膚科の治療に関しては「同じ施術をするならできるだけ安いところでやろう」と考える方も多い傾向にありますが、美容外科は違います。
手術に関しては「失敗したらどうしよう」という不安を患者さんは常に抱えています。患者さんにとっては仕上がりがよくなることが最優先のため金額重視で選ぶのではなく、自分の理想や希望を叶えてくれるクリニックはどこなのかを入念に調べた上で数あるクリニックの中から、そのクリニックの技術・サポートに期待して来院されるのです。
そして手術の成功・失敗を判断するのもクリニック側ではなく患者さん側です。カウンセリングの段階では患者さんが理想としている形はどんな形になることなのか、その希望を自分のクリニックでは再現可能なのか、リスクとしてはどんなことが起こりうるのか認識のすり合わせを十分に行います。
そして手術をする際には患者さんの不安や緊張を汲み取り、出来る限りのサポートをしていきます。もちろん最善を尽くしたとしても、全ての人に対し100%成功させることができる医師はいません。希望通りにできなかった場合、トラブルが生じた場合のアフターフォローを医師や他スタッフとともに行っていきます。ですから手術前後、手術中全ての段階において患者さんとクリニックの信頼関係の構築は必須です。
患者さんの希望を叶え、「このクリニックに任せてよかった」と思っていただけるようなクリニック作りのために看護師としてできることは何かを考えていくことが重要となります。
実際にどんな業務をしているの?
それではここからは実際に美容外科ナースがどのような業務をしているか手術ごとの特徴も含めてご紹介していきます。
糸などによるダウンタイムの少ないプチ整形
まずはダウンタイムの少ないプチ整形と言われる分野の手術です。具体的には糸を埋め込む二重埋没法や鼻整形、糸による顔のリフトアップなどが挙げられます。創部は基本的に小さく、出血量も多くはないため全身状態に影響を及ぼすことは少ないです。
しかしこの手術を受ける方は、今まで手術の経験がなく、緊張や不安がとても大きいという方が多いです。
そのため手術前後、手術中の声かけや患者さんのペースに合わせたサポートというのが看護師の重要な役割になります。
切開系の手術
続けて切開系の手術での看護師業務についてお伝えしていきます。
こちらはプチ整形に比べると出血量は多くなり、手術時間も長くなります。
美容外科に関わらず看護師の基本ではありますが、予め患者さんの既往歴や服薬情報などは頭に入れ、術中に全身状態に変化がないか観察していきます。
手術室にはもちろん執刀医もいるのですが、執刀医は術野に集中しています。そのため看護師は広い視野を持ち、術野にも集中しつつ患者さんに何か異常があれば、それを医師に伝える。そのような連携が必要となります。
豊胸や脂肪吸引などの身体の手術
続けて豊胸や脂肪吸引などの身体の手術のケースについてご紹介していきます。豊胸や脂肪吸引などの大掛かりな手術になると全身麻酔を希望する患者さんが多くなります。
全身麻酔の場合は手術前の飲食の制限が実施できているか、既往、体調について確認をしていきます。術中の全身管理はもちろんですが、術後覚醒してからも全身状態に問題はないかフォローしながらみていきます。
全身麻酔を使用する場合には麻酔科医が同席することもあるため、そのときには全身管理は麻酔科医が主に見てくれますが、患者さんについての情報の共有がとても重要となるため確実に情報を伝達するようにします。
その他の業務
手術室に入っているとき以外にどのような業務を行っているかご紹介していきます。
まずは薬剤管理です。手術を受けた患者さんには術後に使用する薬の処方をすることがほとんどですのでそちらの準備をします。また手術中に使用する麻酔や、全身状態をコントロールするために様々な薬剤を使用するため、常に切らすことがないよう在庫数や使用期限などを把握しておきます。
次に手術室で使用する機器のメンテナンスです。手術によって様々な機械を使用しますが、いざ使おうとしたときに機器の調子が悪く使用できなかった…、というようなことがないように日々のチェックや業者さんへの定期メンテナンス依頼は欠かせません。
そして手術中に使用する物品の滅菌作業もします。手術中は清潔操作が必須です。1回使い切りのディスポタイプを使用することもありますが、全ての物品が使い捨てのクリニックはありません。
使用後には丁寧に洗浄し、次回また清潔に使用できるように滅菌を行います。物品によってはあまり使用頻度が高くないものもありますが、前回滅菌してから長期間経っているようであれば安全性を保つために再滅菌をしていきます(クリニックによって再滅菌の基準は様々です)。そのため定期的に物品の在庫数や滅菌経過期間などをチェックしていくのも大切な業務の一つです。
大手美容外科クリニックと小規模な美容外科クリニックの業務の違い
クリニックの規模の大きさによる業務の違いについても解説していきます。
大手のクリニックになると業務が部署ごとに完全に分かれていることが多いです。
来院時、会計時、施術終了時には受付が、カウンセリング時にはカウンセラーが、手術時には看護師が患者さんを担当するなどと分担がしっかりと決まっています。
そこで看護師に求められるのはいかに効率よくたくさんの手術を行っていくかになります。私が勤めていた大手クリニックでは医師が3人に対し、手術室が6部屋ありました。予め手術をすることが決まっている場合もあれば、カウンセリングを受けて急遽そのまま手術となることもあるので常に現場の最新情報を把握しつつ自分の役割を確認し、準備をしていきます。
医師は1日の中でたくさんの患者さんのカウンセリングや手術に入るため、できる限りタイムロスをしないように次の手術の準備も考えながら進めていきます。このときに流れ作業のようになってしまうと患者さんの緊張や不安が増したり、クリニックに対する不信感につながるため、患者さんファーストは大前提として手術を行っていきます。扱う件数が多いため、美容外科ナースとしてのスキルを伸ばしていきやすいのが大規模クリニックのメリットでしょう。
小規模のクリニックになると看護師が介入する場面が多くなります。クリニックにもよりますが、私が現在勤務しているクリニックでは手術に関する部分はもちろんのこと、受付、カウンセリング、会計にも入ることが多いです。
一連の流れに介入するため負担は大きいのですが、クリニックに来院された患者さんの想いを直接聞くことができるため患者さんの気持ちに寄り添った提案や看護ができ、業務の負担以上にやりがいを感じられます。
小規模のクリニックは大手にはないアットホーム感があります。一人一人の患者さんと密に接することができるので、患者さんから「ここで手術をすることにして本当によかった」と言ってもらえたときの喜びもとても大きいです。これが大規模にはない小規模のメリットといえるのでしょう。
美容外科における看護師の役割とは
美容外科における看護師の役割は患者さんの気持ちに寄り添いつつ、手術を安全かつスムーズに進めていくことです。
これは美容外科ではなく、保険診療の看護においても同じことが言えます。ただし決定的に違うことは手術の成功・失敗は患者さんが決めるということです。
美容外科は病気を治すわけではなく、患者さんの希望を叶えるのが仕事です。患者さんはどうなりたいのか、今何で悩んでいるのか、それを解決するために私たちは何ができるのか。
それらをできる限り把握して、患者さんが手術を受ける前よりも前向きになれるようサポートをすることが大切と言えるでしょう。