2020年から2021年にかけてニュースの一番の話題となっているのが新型コロナウイルスの世界的な流行です。新型コロナウイルスの感染拡大により日本国内も外出の自粛を余儀なくされ、これにより日本の経済活動は大きな打撃を受けています。このような状況の中、新型コロナウイルスの流行による美容クリニックへの影響はどのようなものなのでしょうか。そこで今回は美容業界歴5年目で現在も美容ナースとして働く筆者が「新型コロナウイルス流行が与えた美容クリニック運営への影響」について解説していきたいと思います。
美容は不要不急か
新型コロナウイルスの流行により、日本各地で「不要不急の外出自粛」という言葉を耳にすることが多くなりました。そしてその言葉を受け、多くの人々が外出の機会を減らすようになりました。
特に2020年の4月から5月にかけての緊急事態宣言が出されている最中は、普段人々で埋め尽くされている東京の街からも人影が消えていました。現在東京で暮らている筆者は「こんな光景を見ることは今後二度とないのではないだろうか」と衝撃を受けました。
そして2021年になった今もなお新型コロナウイルスの感染拡大は収まらず、不要不急の外出自粛の流れは続いています。
そこでネット上などで度々挙がるのが「美容は不要不急の行為にあたるのか」ということです。
美容クリニックで勤務するナースの一意見として筆者の考えを申し上げると、美容は一概に不要不急とは言い切れないと思っています。
美容に関する行為はやらなかったからといって命に関わることはありません。そのため世間的には美容に関することは贅沢なこと、浪費として捉えられることが多いです。
ただ命にかかわらずとも、美容医療を受けることで精神的に落ち込んでいた方が前向きに物事を考えられるようになったというケースも少なくなく、心の健康に良い影響をもたらすことができるのが美容の特徴だと思います。
そういった意味で考えると人生において美容は不要とは言い切れないと思います。
しかしながら美容医療にはダウンタイムの期間が長く、施術を受けられるタイミングが人によっては限られるものも多く存在します。それは周りから見ると「なぜこのタイミングで施術を受ける必要があるんだ」と思われる内容かもしれません。
ですが普段まとまった休みを確保することができず、コンプレックスや悩みをを抱えたまま過ごしていた方にとっては、人とのかかわりが少なくて済む今しかできない、つまり「急いで行うべき」内容になりうるのです。実際に来院される患者さんからは「自粛しないといけないのはわかっているけれど、これからの人生の中で今のタイミングを逃したら手術を受けられる機会はもうないと思って…」という言葉をいただくこともありました。
そのような方々のために感染対策を十分に行い、来院される患者さんが安心して美容医療を受けられるように努めていくのが今の美容クリニック運営に必要な姿勢なのでしょう。
コロナ禍での美容クリニックの売上・来院数の変化
新型コロナウイルスの感染拡大による国民の外出自粛は日本の経済活動に大きなダメージを与えました。生命維持に必要な一部の業界を除き、対面でのやりとりが必要となる接客業に関しては、飲食業や観光業などを始めとし、さまざまな業界で経営悪化が叫ばれています。
それでは、同じく接客業である美容クリニックではコロナの感染拡大の影響はどのように出ているのでしょうか。この点についてみていきましょう。
一番売上や来院数が落ち込んだのはやはり2020年の4月から5月にかけての緊急事態宣言中でした。この期間は国民の外出自粛の意識が一番高かった時期でもあり、新規の予約はほとんど入らず、入っていた予約もキャンセルとなることが多くみられました。
この状況に対して休業するクリニック、診療時間を短縮するクリニック、通常通り診療するクリニックなどクリニックにより対応はさまざまでしたが、やはりどのクリニックも売上は厳しくなっていたようです。
しかし、美容クリニックの中でも新型コロナウイルスによる影響の出方は分野ごとに異なりました。美容クリニックは大きく分けて美容外科、美容皮膚科、脱毛クリニックの3つの分野に分類されることが多いのですが、その中で比較的売上が落ち込みが少なかったのが美容外科の分野です。
美容外科は美容整形手術を主に扱う分野になります。美容整形手術はダウンタイムを要する内容がほとんどで、仕事や学校の都合上、十分な休みを確保することができないために手術を断念する方、仕方なくダウンタイムが少なくて済む手術を選択せざるを得ない方などが多くいらっしゃいます。二重を例とすれば、本当は切開法でやりたいのに、ダウンタイムの関係で、埋没法にせざるを得ない方などです。
しかし、緊急事態宣言の時には多くの学校、企業が休校、休業になりました。そのため普段はダウンタイムを確保できない方々でもまとまった休みを確保することができ、この機会でダウンタイムが長い手術に踏み切ろうと考える人々が増えたのです。
緊急事態宣言が解除されてからもオンライン授業やテレワークが引き続き推奨され、直接人と合う機会が少なくなったからという理由で手術を受けられる方もいらっしゃいます。
そして一般的にダウンタイムが長い手術の方がダウンタイムが短い手術に比べ金額も高くなる傾向にあります。そのため、ダウンタイムが長い手術を選択する人が増えたことで顧客単価が上がりやすくなりました。来院数は減少傾向にあったものの、単価が上がったことで売上を比較的維持することができたということになります。
これに対し美容皮膚科や脱毛クリニックは、ダウンタイムがない、もしくは少なくて済む施術がほとんどです。いつでも気軽に受けられるというのは本来メリットではあるのですが、いつでも気軽に受けられるからこそ「あえて今行かなくてもいいかな」「少し落ち着いてから再開しよう」と考える患者さんが多く、外出自粛による来院数減少の影響は受けやすかったようです。
また、美容皮膚科や脱毛クリニックは美容外科と比較すると顧客単価も低い傾向にあるため、来院数減少がそのまま売上の減少にも繋がる結果となったようです。
新型コロナウイルス流行によるクリニック運営の変化
新型コロナウイルスが流行したことによる来院数や売上の変化については先述した通りになりますが、これを受けてクリニックの運営においてスタッフの意識とシステムの2つに変化がありました。この点についてこれから解説していきます。
まずスタッフの意識の変化についてです。
新型コロナウイルスの流行を受けて起こった意識の変化とは効率よく仕事を行うことへの意識の高まりです。
まず新型コロナウイルスの感染対策のためにクリニックが行うべき最優先事項はクリニック内の混雑を避けることでしょう。
美容クリニックは完全予約制で対応しているクリニックが多く、患者さんが一度に密集することがないようクリニック側で調整ができます。また、来院された患者さんのプライバシーを保護するためにカウンセリングや施術はもともと個室で行うことが一般的で、他者との接触機会を減らしやすい環境にあります。
筆者も美容クリニックに来院された患者さんから「例えいいクリニックでも混んでいるところは今は怖くて行きたくない。ここは混まないように配慮してくれるから安心して来れる」とお言葉をいただき、患者さんが安心して来ることができるクリニック作りの重要性を感じました。
しかし、患者さんの安全確保のため予約数を制限することばかり考えていると今度は受け入れられる患者数が減り、クリニックの売上が伸び悩んだり、予約が取りづらいと患者側の不満に繋がり顧客離れに繋がったりしてしまいます。
患者さんが安心できる環境を維持しつつ、より多くの患者さんを受け入れるためにはどうすればよいのか。今まで当たり前に行っていた業務で無駄な部分がないか再度確認をしたり、スタッフの導線の見直しをしたりするなど、効率よく仕事を行う重要性を今回の騒動をきっかけにスタッフ全体が意識するようになったと感じます。
続けてシステムの変化についてです。
これは美容医療のオンライン化が挙げられます。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けてオンライン診療を始めるクリニックが徐々に増えていき、美容医療のオンライン化が進むきっかけとなりました。
もちろん施術を提供する際には直接やりとりをする必要があり、全ての業務をオンライン化するのは難しい業界ではありますが、カウンセリングやドクターズコスメ等の物販に関してはオンラインで対応するクリニックが多く見られるようになりました。
診療をオンラインにすることでクリニック側と患者さんとが直接接触する機会を減らせることができるので感染対策に効果的です。
また、クリニックから遠い地域に住んでいる方や、美容クリニックに実際行くのは敷居が高く感じて行けていなかったという方が気軽に専門家の話を聞くことができる場となるので、新規顧客の獲得にも繋がっています。
今後もオンラインとオフラインをうまく使い分けながら患者さんに対し安全で安心な医療を提供していくことが重要となっていくでしょう。
コロナウイルスの流行によるスタッフ採用への影響
ここからはコロナウイルスの流行によってスタッフ採用への影響はどのように出ているのかみていきましょう。
2021年になった現在も新型コロナウイルスの猛威は衰えることを知りません。美容クリニック側も今後の先行きが不透明であることから、積極的な採用を控えるクリニックが多く、今までと比較すると求人件数も減ってきている印象を受けます。クリニック内の混雑を避けるために予約数も制限しながら診療を行っているため、少ないスタッフ数でも運営できているというのが実情でしょう。
特に美容皮膚科と脱毛クリニックは外出自粛の影響を受けやすいためより求人数が少なくなっています。転職するにあたってたくさんのクリニックから自分に合ったクリニックを選びたいという方にとっては難しい時期かもしれません。
このように苦しい状況下にある美容クリニックですが、求人を出すにあたっては次の3つの力がある人を採用したいと考えています。それはタイムマネジメントができる人、変化への対応力がある人、提案力がある人です。
一つ目のタイムマネジメントができる人はクリニックの感染対策において重要となります。完全予約制のため混雑しないよう調整がしやすい美容クリニックではありますが、一人一人の患者対応に遅れが生じてしまい結果としてクリニック内が混雑するようでは意味がありません。
患者さんが「このクリニックは対策ができていないからもう来たくないな」と感じることで顧客離れに繋がってしまう可能性もあります。じっくり時間をかけて丁寧に患者対応にあたることも大切ではありますが、決められた時間内で患者さんを満足させられる対応ができる人材は感染対策、顧客満足度の向上においてとても貴重な存在です。
そして現在のような先行きが不透明な状況下においては変化への対応力、提案力がある人が重宝されます。感染の縮小、拡大によってクリニックの運営やキャンペーン内容、患者さんへの案内等その都度対応は変わっていきます。
「言うことがコロコロ変わって嫌だな」と感じるのではなく、クリニックが存続するためにそのときに一番ベストだと思える方針に迅速に対応できる対応力が必要です。また、上から言われたことだけをこなすのではなく自分も当事者となって「今何をするのがクリニックにとって最善なのか」「どのように集客していくか」と考え提案できる力があればクリニックからの評価は高くなります。
求人数が限られる今だからこそ、特に上記3つの能力については転職時にアピールできる人が選ばれる人材と言えるでしょう。
コロナ禍で美容クリニックへの転職を考えている場合に確認しておくべきポイント
もし現在美容クリニックへの転職を考えているのならば緊急事態宣言中はクリニックでどうような対応を行っていたのか確認しておくとよいでしょう。
先述したように宣言が出されている最中は休業するクリニック、診療時間を短くしていたクリニック、通常通り診療を行っているクリニックとクリニックごとに対応は様々でした。
そして通常通り診療を行っていたクリニックも予約数を制限しているため、出勤スタッフを減らす必要があり、有給休暇を使わざるを得なかったというケースや、クリニック自体は休診だったがスタッフは通常通り出勤し研修や仕事内容の見直しに時間を充てていたというケースもあるそうです。
今後も同じような状況が起こり得るかどうかは誰にも分かりません。ですが、万が一その状況になったとき、自分の労働環境、収入面はどうなるのかは知っておいて損はありません。この点は自分自身の生活を守っていくためにも確認しておき、自分の価値観に合った対応をしているクリニックを選ぶようするとよいでしょう。