医師転職に限らず、一般企業でも、一番見極めが難しいのは、行っていい転職先なのか、ダメな転職先なのか。特に初めて美容の領域に入る先生にとっては、指導してもらう先生、ナースをはじめスタッフ、オーナーなどを少しでも事前に知っておきたいでしょう。 美容医療のベテランアドバイザー2人が、プロの目からみて、“OK”と“NG”をばっちり教えてくれました。やはり見方がプロフェッショナル! これでもう迷わない!
■アドバイザーSさん経歴
大手通信会社・医療コンサルティングの個人、法人営業を経て営業本部長に就任。延べ10,000人以上と対談し、転職後も医師のパートナーとして、開業、運営サポートを長期的に支援するのが強み。医療関係者から評価を得ているコミュニケーション能力を活かし、医師が真に求めている条件、課題の発見・解決を信条とする。
■アドバイザー吉澤さん経歴
サービス業・大手通信会社・営業職を経てフォーカスタマー株式会社へ入社。医師キャリアアドバイザーとして美容医療系専門チームに所属し、医師・看護師・薬剤師・コメディカル各職種の転職支援に従事する。現在構築した美容医療業界・大手美容クリニックなどと連携し関係性を100%活かしたリアルな情報を提供できるのが強み。
美容の経験が豊富な指導医がOJTで教えますというクリニックは、具体的に何を教えるかが分からないので、それだけの情報のクリニックは要警戒
ー医師に転職相談を受けたとき、どんな美容クリニックをおすすめしたいですか?
アドバイザー吉澤さん(以下Y):先生がまずスキルアップをしたいのか、収入を上げたいのか、それとも勤務内容がライトなものにしたいのかにより変わってくると思います。例えばスキルアップが目的であれば、研修制度が充実している、もっと言うと何を教えてくれるのか詳細に決まっているクリニックがいいと思います。
逆に、美容の経験が豊富な指導医がOJTで教えますというクリニックは、具体的に何を教えてくるのかが分からないので、それだけの情報でクリニックに転職するのは危ないかと思います。1診制(医師が1人体制)のクリニックではそういうケースが散見されます。
ここがポイントになりますが、例えば単院で院長先生1人が週5日勤務、非常勤の先生が2人、このパターンの場合、教育環境が整っているかというと、教えるのはなかなか難しいと思います。1診制は1院1人しかドクターがいない環境なのでその辺りも見たほうがいいと思います。
アドバイザーSさん(以下S):勉強に対して相当熱量の高い先生でないと難しい面があります。例えば休みの日に院長先生の後ろについて4時間勉強するというような。小規模で研修をしっかりというのは、なかなか難しいラインではあると思います。
ただ、院長先生が休みの日に教えてくれるとか、業者さんをマメに呼んで勉強会を開いてくれるクリニックもなくはないです。
Y:「どのように指導してもらえますか」という質問は大事ですね。
ーまずそこで1つ基準になるということですね。
S:そうですね。あと大手クリニックさんでは多くの分院がある中で、この院が研修に手厚い、比較的指導が丁寧というのはこちらに伝わってきますので、そういう情報も含め、半年に一度でいいのでエージェントに確認することも必要だと思います。
それから一緒にクリニック見学に行って、検討する場合も、「もう1院見てみませんか?」という提案をしてくれるエージェントさんだったら失敗はしないと思います。大手希望でも、やはり合う合わないはありますので、こちらが持っている情報をもとに、大手クリニックの中でも医師に合った環境を提供できると考えています。
初めて美容クリニックに転職するのであれば、開院1~3年目のクリニックは少し注意したほうがいいと思います。まだ、今後の流れが見えない時期でもあるので、なるべく長くやっているクリニックのほうがいいと思います
Y:3000万円以上に収入アップを希望する先生に関しては、基本的には美容経験者がほとんだと思います。例えば保険診療から自由診療である美容に来れば必然的にアップしますが、経験者でさらにそれ以上を求めるのであれば、転職先は正直どのクリニックでもいいと思います。経験で診療の内容は大体理解されていると思いますので。
ー美容に行った経験のある先生ということですね。
Y:そうです。もし未経験から相当額アップを求める先生がいるとすれば、美容にこだわりがある先生ではないと思いますので、ドクター手技が少ない収入面で条件のいいクリニックがいいと思います。例えば脱毛クリニックや、AGAクリニック、処方専門のクリニックです。あと開院して何年目かというのが重要だと思います。
1~3年目のクリニックは少し様子をみるのが無難です。まだ、今後の流れが見えない時期でもあるので、なるべく長くやっているクリニックのほうがいいと思います。
S:クリニックは開院して2年間はテスト期間という見方もできます。2年で大体半分ぐらいの借入金を返済したり、運転準備期間になっていると思います。オーナー企業や院長先生がしっかり理念を持っていて、研修も充実している、人柄的にもよくて…というところだったら良いと思います。
ー例えば短期間で伸びているクリニックは勢いがあると思いますが、転職のプロから見てご意見をお聞かせください。
Y:一気に広がりすぎている分、スタッフさんの教育や、人材集めの状況など、会社に勤めていらっしゃる方は大体想像つくと思いますが…。そうすると長く勤めているスタッフさんが不安で、辞めてしまうというケースもあったりもします。
ー一気に新しい人が入ってきて、院内文化の構築が追いつかないなど。
Y:おっしゃる通りです。急激に伸ばすとやはり中の体制、組織も新しくルールを作っていかないといけません。
S:給与面ではメリットはあると思いますが、その分総務、事務の不備など我慢することは多いかもしれないです。もちろんオーナーにとってはクリニックといえどビジネスですので、クリニックが急成長し事業がうまくいったら、オーナーとしては売りたくなります。それによりオーナー企業が変わったりすることもあります。
Y:そうなるとやはり運営している人が会社かドクターかというのも重要ですね。
一度わだかまりができてしまうと、どんどんお互いが離れて行ってしまいます。それが原因で、クリニックを辞めることが一番多いと感じます
ーどちらがいいですか?
Y:ドクターのほうが、ドクターの気持ちは分かっていますよね(笑)。企業運営の場合は、基本は利益を重視しますので、それこそ急成長し、そのスピード感についていけるかどうかというのもあると思います。最初の1年目はこういう条件で入ったけど、2年目、3年目になると条件が変わってしまって、全然違ってしまうケースもあります。
ー長く続けられている方はこういうクリニックに入職しているとか、医師の美容クリニック転職で失敗しないための方法はありますか。
Y:これは僕がアドバイザーをしていて感じたことですが、一般の事業会社もクリニックもそうですが、トップの人と膝を突き合わせてとことん話す機会はあまりないと思います。一度わだかまりができてしまうと、どんどんお互いが離れて行ってしまいます。それが原因で、クリニックを辞めることが一番多いと感じます。
クリニック自体はもちろん、勤務体制、研修にも問題がない場合にもそれは起こりえます。要は、その間に入ってフォローしてくれるエージェントがいるかどうかだと思います。例えば弊社の場合は、先生が入職して1カ月後、2カ月後、6カ月後、1年後という感じで、常に状況を確認させていただいています。
そのときに先生がどう思っているかを吸い上げたら、今度はクリニックの担当者とも比較的深く話ができる態勢にはしているつもりなので、先生の気持ちを代弁して「こういう状況にあります」と担当者に伝えていきます。そこで「じゃあ、一度3者で話しましょう」という環境がつくれるかどうかが重要だと思います。
ー当事者間ではなかなかわからないので、途中で気づいて、間をもって、軌道修正する人がいるかどうかというのはかなり違いますよね。
S:3者、4者面談を頻繁にやるところは結構危ないとは思いますが、その前に互いのフラストレーションを発散できれば、そこまで摩擦は大きくならないと思います。そのような機会がない場合は、かなり早い段階で、離れていかれるのではと思っています。
実は「他社エージェントさんの紹介で入った先生が経験が浅すぎるから、次の先生を探してくれる?」という電話が昨日ありました。入職して1カ月程度です。そのぐらい、ミスマッチな提供をしている紹介会社は多いです。先生が悪いわけではなくて、事前に先生とクリニックの思いを汲んでいない、売上重視のエージェントに問題があると思っています。
Y:クリニックの特徴をどこまでちゃんと深く話せるかも重要です。これもエージェントが調べていないと難しいですよね。短期で辞めてしまう先生の理由としては最初に案内された内容と違う、それは先ほど言った、上の意向として変わってくる部分もあると思いますが、エージェントが入職させたいがために隠す部分もあったりすると聞いています。
例えばWebサイトが良いとそのクリニックが150~200%増しに見えます。そこを全部信じてしまうと危ないと思います
ー入って初めて分かるということですね。
Y:最初は転職したばかりだし、取りあえず働こうと続けていくけれど、やはり不満は積もり積もっていきます。
S:はっきり言うと、良くないクリニックにある多くの特徴は事務長、院長になにかしらある傾向にあります。ここはあまり言うと怒られますが、薬剤のことを分かっていない事務長さんが変な薬を入れ始めたとか、そういう危ない話もあります。
Y:それは大丈夫な薬なのかとドクターがまず不安ですよね。
S:大手さんでも変な薬剤を海外から仕入れて、先生方に「スペシャルブレンドなので、これを使ってください」というケースもあって、よく分からない薬剤を先生方が顔に注入しないといけなくなることもあるとかないとか…。
そこで起こりえる副作用や合併症も把握していなければならないので、説明も無くゴーサインが出たり、過去に裁判になっていたり、辞めるときに揉めるクリニックなどクリニックの情報はいろいろ聞いてもらえれば個々にできる範囲でお伝えはできます。
S:クリニックはいいけど、周囲の人に癖がある場合もあるので、そういうところも知ってもらったほうがいいのかなと思います。例えばWebサイトが良いとそのクリニックが150~200%増しに見えます。画面上だけではわからないことがあるので、そこを全部信じてしまうと危ないと思います。
ー特に美容クリニックのサイト・広告の画像は外国人モデルの女性だったりと、きれいなイメージがありますよね。
Y:ホームページだけで善し悪しを判断することは、私たちのような転職エージェントでも無理です。やはり最終的に「人」なので、そこはしっかり会って話すことが一番近道だと思います。
S:小さいクリニックでも面接というよりは面談を兼ねて見学ができるので、それが難しいクリニックは警戒してもいいと思います。ただし、美容クリニックでは中を見せたくない、技術を盗まれたくないというところもあります。
ー最初に美容に入った先生は、そのクリニックの先輩医師や、オーナー医師のやり方で目もとや鼻等の施術を習うということですか?
Y:小さいクリニックだとそうなります。大きいクリニックですと、色々な先生が所属しているのでアプローチの仕方もそれぞれ違いますし、そこで自分に合ったやり方を見つけられるかどうかが重要になってくると思います。
業界をよくしたいというエージェントさんは業界に残ってほしいですし、ただ、自分の給料だけ稼ぎたいとか、先生の家族のことまで考えられないようだったらドクターのエージェント業からは引退してほしいと思います
Y:転職相談に来た先生から、以前はどこに勤めていたと名前が多くあがるクリニックもありますので、どのような勤務内容だったかは大体分かりますね。
S:そういったクリニックでも、はまる先生もいらっしゃるので、そこは先生方の性格を見極めて、全てのリスクは伝えたうえで、それでもいいとおっしゃるなら紹介もします。
Y:先生からよく聞く話ですが、色々な部分でリスクを話してくれるエージェントさんは少ないみたいですよ。話さないのはどのようなリスクがあるのかを分かっていないといのが本音かもしれませんが。
S:だから、逆に時間が掛かるかもしれないです。先生たちにじっくり考えてもらいたいので。3年後にやっぱり転職しますと言われる先生もいらっしゃいます。
Y:リスクがわかってないエージェントは、勤務体制が問題なのか、施術の部分なのか、まずリスクがどこに隠れてるかが分かっていないところがあります。
ー最後の締めをお願いします。
S:美容医療業界をよくしたいというエージェントさんに業界に残ってほしいですし、ただ、自分の給料だけ稼ぎたいとか、先生の家族のことまで考えられないようだったらドクターのエージェント業からは引退してほしいと思います。
ーそのくらいの覚悟でやってほしいという思いですね。
S:そうでないと、転職は履歴書に花を添えることもできるし、傷を付けることも可能なので、そこの重みを理解しているのかをエージェントになる方に伝えたいと思います。
Y:私も先生の人生を背負っているつもりで取り組んでいます。日本は転職においては履歴書社会だと思いますので、先生の今後の展望に向けてどういうキャリアアップをしていけばいいのかをしっかり道筋を決めていけることが大事だと思います。