美容クリニックの外国人患者受け入れの現状とその中での美容看護師の役割とは

今回は美容クリニックにおける外国人の受け入れの現状とその中での美容看護師の役割について解説していきたいと思います。

日本の美容クリニックで治療を望む外国人は年々増えています。日本に訪れた外国人が日本の化粧品を好んでたくさん買って行くように、日本の美容医療技術は安心・安全で繊細だということから非常に人気が高いのです。

現在は新型コロナウイルスの世界的な流行により積極的な外国人の受け入れ(インバウンド)は難しいのですが、また自由に海外旅行ができる世界になった際にはこれまでと同様に日本の美容医療を求めて来日される方々は多いと思います。

「私は英語が話せないからコミュニケーション取れないし、関係ないな」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、たとえ言葉が通じなくても患者さんの安全を守りつつ、快適に過ごしてもらえるような環境を提供するのは看護師の役目です。

外国人の受け入れに関していまいちイメージが湧かないなという方や、看護師としてどこに気をつければいいんだろうという疑問をお持ちの方は是非参考にしてみてください。

新型コロナウイルスの世界的な流行に伴い、訪日外国人からの需要は低下

新型コロナウイルスの世界的な流行により海外旅行は気軽に行えるものではなくなってしまいました。国を行き来するごとに数週間の隔離生活があることから観光などの娯楽での行き来はなくなり、現在海外を行き来する方はビジネス目的などが大部分を占めています。

新型コロナウイルスが流行するまでは美容医療を受けるために来日していた訪日外国人が一定数おり、美容クリニックの現場で働いていた筆者は年々その人数が増えていっていることを実感していました。そしてわざわざ日本に来て美容医療を受ける外国人は価格の高い・安いはあまり重要視しておらず、技術力を信頼して選んで来ているため顧客単価も高い傾向にありました。
ですがコロナにより訪日外国人が一気にいなくなってしまい、訪日外国人をメインの客層としていたクリニックは大きな打撃を受け、中には経営が難しくなってしまったクリニックもあると聞きます。

もちろん日本の美容医療の魅力が低下したわけではないので、新型コロナウイルスが落ち着けばまた訪日外国人からの需要は復活してくることが予想はされます。ですがまだしばらくの間は訪日外国人の患者数は少ない状況が続くことでしょう。

在日外国人には美容外科よりも美容皮膚科が人気

先にも述べたように現在は訪日外国人の人数が減少しているため、美容クリニックに来院される外国人は在日の方々がほとんどです。

在日の方々も国籍はさまざまですが、筆者の実感としては美容外科よりも美容皮膚科の方が患者数としては多い印象です。

それはなぜなのか。ここから理由を見ていきましょう。

海外の方からすると日本人の肌は白く、きめ細やかで美しいと思われており、憧れの対象となっていることが多いです。私も外国人の対応に入った際に「日本の人は肌が綺麗よね。どんな治療をしたらああなれるのかしら?」と聞かれたことは一度や二度ではありません。

日本人のような肌になりたいという想いから美容皮膚科での治療を望まれる方が多いのです。

美容外科の需要もゼロではありませんが、美容外科での施術を希望するのは中国人がほとんどといったところでしょう。

中国人と日本人はなりたい顔立ちや体型が同じ系統のことが多いため、日本の美容クリニックの症例写真を見て在日の中国人は自分の希望に沿ったクリニックを選ぶことができます。ですが、欧米人などはもともとの骨格や理想の顔立ちや体型が異なるので日本の美容外科を積極的に選択することはないようです。

これは執刀する医師側の話になりますが、骨格が違うとどんなに腕のいい医師であっても思い通りの手術がしにくくなるそうです。つまり欧米人が美容整形の手術を受けるのであれば普段アジア系の患者さんを数多く執刀している日本の医師に依頼するのではなく、欧米人の症例を数多く扱っている現地の美容外科の医師に依頼するのが無難だというわけです。

このような理由から在日の外国人には美容外科よりも美容皮膚科の方が需要が高いのです。

外国人に選ばれるクリニックの特徴

それではここからは外国人に選ばれるクリニックの特徴についてみていきましょう。

日本の美容クリニックを訪れる外国人が増えていると言っても、来院するほとんどが外国人のクリニックもあれば、全く外国人は来ないというクリニックもあります。
その違いは一体何なのでしょうか?

クリニックの立地で考えると、やはり地方よりも首都圏のクリニックの方が外国人の来院数は圧倒的に多くなります。在日の外国人の方々は地方よりも首都圏に多く居住していますし、訪日外国人の場合は東京や大阪が空港からのアクセスも良いので来院しやすいからです。

そして医師の外国語が堪能であるクリニックも選ばれやすいです。美容医療も治療するにあたってはさまざまなリスクが起こる可能性があります。外国人に限った話ではありませんが、来院される患者さんは治療により得られる効果・メリットはしっかりと理解しているものの、一方でリスクやデメリット、治療後のダウンタイムの経過に関しては認識が薄いということはよくあることです。

治療をした後に患者さんから「こんな風になるなんて聞いていない!」と言われないように治療前には予めリスク説明も含めた医師からのカウンセリングは必要不可欠ですが、来院される外国人の中には在日・訪日関係なく日本語でのコミュニケーションが難しい方々が多くいらっしゃいます。そういった方々にとっては日本語しか話せない医師に診てもらうよりも英語や中国語で美容医療の専門的な話をしてくれる医師の方が安心できるのは当然のことでしょう。

また外国人が多く訪れるクリニックでは医師だけではなく受付やカウンセラーのスタッフも中国語や英語が堪能な人材を雇用していることが多いです。

医師は一日の間に何人もの診察や処置を行う必要があるため、日本語が話せない患者さんにずっと付いてサポートをすることは不可能です。そのためクリニックにいる間の基本的なサポートは医師以外のスタッフで行います。東京にある外国人の来院が多いクリニックの中には来院される患者さんの半数ほどが外国人の方で、そこに在籍するスタッフの9割はバイリンガル、トリリンガルというクリニックもあるくらいです。
そこまでスタッフの語学力に力を入れてくれていると日本語でコミュニケーションを取れない場合も安心してクリニックを訪れることができ、自然と患者の外国人比率が増えるというのは納得できます。

しかし外国語の話せる人材の確保は簡単なことではなく、日本語の話せない外国人の対応ができるスタッフが一人もいないクリニックも珍しくありません。むしろそちらの方が普通だと思います。そういったクリニックで外国人に選ばれるクリニックは紹介会社を利用しているケースが多いです。

紹介会社は患者サイドの要望を聞いておすすめのクリニックの紹介を行います。そこで患者の希望したクリニックに代わりに予約を取ります。当日は患者と一緒に紹介会社の通訳担当が一緒に来院し、スタッフや医師とのやりとりを全て通訳してくれます。治療や手術中にも横に同席し、スタッフの代わりに声かけをし不安の軽減に努めてくれることもあります。技術力のあるクリニックはこうしたサービスを利用することで、外国人の患者さんからのリピートがたえない状況を作ることができます。

やはり外国人に選ばれるには技術力だけではなく、クリニックの立地や日本語以外のコミュニケーションが取れるかの部分が大きく影響してくるようです。

外国人患者が増えている中での美容看護師の役割とは

それでは美容クリニックを訪れる外国人が増えている中で、美容看護師はどのような役割を担う必要があるのでしょうか。ここからは筆者の経験を元に考えたこと、感じたことをお伝えしたいと思います。

筆者は英語が全く話せません。そのため日本語が話せない方の対応に入るときには簡単な文章や単語でなんとかやりとりをしています。もちろんうまく自分の気持ちを伝えられなかったり、相手の気持ちを理解するのにも苦労するので、最初のうちは「日本語しか話せない自分は外国人の患者さんに対して何もできないな」とかなり苦手意識を持っていました。

しかし、患者さん側が美容看護師に求めているのは完璧なコミュニケーションができることなのかと考えた時にそうではないと思いました。自分に求められるのは看護師としての役割を果たすことです。

具体的にはまずは相手の苦痛や不安を軽減することです。
例えばレーザーの照射時には目を保護するために患者さんにゴーグルをつける場面があります。そうすると日本語が通じない患者さんはいつレーザーが照射されるのかわからず不安になります。さらにはレーザーによっては眩しさを感じるものもあれば痛みを感じるものもあり、びっくりして大きく体を動かしてしまう可能性があります。これだとレーザーを誤照射してしまう危険性もあり大変危険です。

同じように手術の場面でも、術野の清潔を保つために顔に滅菌した布をかける必要がありますが、そうすると当然患者さんは何も見えなくなります。手術をしている最中に痛みで動いてしまったり、手を動かすなどして術野を不潔にしてしまうと安全な手術を行うことができません。

そのため施術を行う前に必ず「照射するときは肩をたたいてから始めますね」「痛いなと思ってもいきなり顔を動かすと危険なのでやめてくださいね」など注意事項をしっかりと伝えておきます。このときに会話はできなくとも簡単な単語とともにボディランゲージを使って伝えると患者さんには意外と伝わっています。周りに通訳する人がいればその方に代わりに伝えてもらってもいいですし、スマートフォンの翻訳機能を使ってやりとりしてもいいでしょう。

大切なのは患者さんの安全を守るために注意事項を予め念入りに伝えておくことです。決して自分のペースだけで進めないように心がけましょう。

もう一つ重要なこととしては肌状態の観察です。こちらは美容皮膚科での治療に大きく関係しています。

人種によって肌質や肌の色はさまざまです。普段日本人を相手にレーザー等の施術を行っているときにもやけどをしていないかなど肌の状態の観察をしているかと思います。しかし肌質や肌の色が変わるとレーザーの効果の現れ方や、やけどのリスクなどがまるで変わってしまいます。

医師から出力の指示を受けて施術に入るものの、医師の方も探り探りで指示を出していることもあり、指示通りに照射してもやけどしてしまうことはあり得ます。そして照射中は医師は同席せず看護師しかいない場面がほとんどかと思います。その場面では患者さんを守ってあげられるのは看護師しかいないのです。

そのため慎重に照射していきながら肌の観察を注意深く行いましょう。その上で、今の照射の出力でトラブルは起きないか、反対にもっと出力をあげても大丈夫そうであればその旨を記録に残し次回以降の出力設定に役立て、安全を守りつつも効果もしっかり感じてもらえるようにしていくことも美容看護師の大切な役割と言えるでしょう。

できないことに目を向けるのではなく、できることを最大限に生かすことを考える

今回は美容クリニックの外国人の受け入れの現状とその中での美容看護師の役割について解説してきました。

現在は新型コロナウイルスの影響により外国人観光客が減り、一時的に美容クリニックを訪れる外国人患者も減ってはいるものの、長期的な目線で考えると患者数は年々増えてきており、今後も増加していくと思います。

そんな中で自分個人の能力やクリニックの体制を考えた時に、何の心配もなくたくさんの外国人患者を受け入れられるクリニックは多くないと思います。実際に筆者のように日本語以外は全く話せないという美容看護師の方々も多くいらっしゃるでしょう。

そんな中でも私たちの役割は変わりません。美容看護師のやるべきことは患者さんの安全を確保しながら美しくなるサポートをすることです。
完璧なコミュニケーションは取れないかもしれませんが、そこに大きな苦手意識を持つ必要はありません。相手の苦痛や不安を軽減する工夫や、状態の細かな観察に注力すればいいのです。

周りのサポートも受けつつ、自分はできること、やるべきことをしっかりとこなす。そうするとたとえ言葉が話せなくても患者さんからの信頼は十分得ることができると思います。
自分だからこそできることに着目して、今後もたくさんの患者さんを幸せにできる美容看護師を目指していきましょう。

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つーさん
岩手県出身。アラサー。学生時代は地元で過ごし、新卒で都内の大学病院に勤め看護師生活をスタート。美容ナース歴は5年目。