今回は未経験、経験者問わず講師を担当した経験から、アートメイクナースの育成について、お話します。
やってみて思うことは、アートメイクナースの育成は大変だということです。
はじめが肝心とよく言われますが、簡単なテクニックではないし、知識量だけでなく経験値も必要になる技術なので、はじめのみならず継続した関わりが必要であると思います。
反省も…。私自身が受けたアートメイク育成法
まず、私自身が未経験から講師に指導していただきアーティストデビューするまでの育成方法についてお話ししたいと思います。
私の場合にはかなりぶっつけ本番な育成をされました。
結論から先に言ってしまいますが、私の様な方法は自分がナース育成する際にはできれば真似したくないと考えます。
その反省点も踏まえてお話しします。
ダラダラしないで短期集中!
平日は美容皮膚科で働きながら、休日に講習を受けに行っていました。二足の草鞋だったのでなかなか集中も出来ず進行もかなり遅かったので、その期間が約半年ほど有りました。
これは流石に時間がかかり過ぎていて、ダラダラと練習してもほとんど身に付かず、もったいなかったと思います。
何か特別な事情が無ければ、もっと凝縮した期間で集中して練習することをお勧めします。
その方が常に意識が学ぶことに向いているので、日に日に感覚が研ぎ澄まされて早い段階でコツを掴んでいくことができるのではないでしょうか。
例えば1ヶ月間は毎日練習すると決める。講師はその中で上手に出来たものを定期的に提出させ、添削をする。
この様な流れが私はちょうど良いと感じています。
しっかりと時間をかけて数ヶ月でも悪くありませんが、人工皮膚を使用した練習も目新しくてワクワクするのは最初の1〜2週間くらいで、その後は少しずつ退屈になってきたりします。気が散っている中で練習したものは、悲しいですが無駄な努力にもなりうるものです。
なので、期間を決めて短期集中でしっかり打ち込むのが私としてはおすすめです。
ほとんどぶっつけ本番のモニター施術
その後は実践としてモニター講習に入りました。
驚くかもしれませんがつきっきりで見ていただいたのは最初の2〜3例目くらいで、その後はすぐお金を払うお客様へ殆ど一人での施術でした。
デザインの確認や、最後の微調整などを講師の方がして下さるのですが、その他は部屋を出て行ってしまいます。
たったの2〜3例しか人体で施術していないので、ほとんど素人が施術をしていた様なものです。今思えば本当に怖いことをしていました。
そもそも、1、2例目も全く上手には出来ていなかったのに、その後すぐにお客様へ入ると言うのが私の中では当時も今も全く考えられません。
最低でも5例くらいは付きっきりで見て頂き、デザインや針の入れ方など含めた細かな感覚を伝授される必要があったと考えます。
練習は平面、本番は球面
他にあと一つ、モニター施術時に感じたことがありました。
紙や人工皮膚は平面であり、お客様のお顔は球面です。
これは施術する時にぶち当たる壁なのですが、予めお顔型の模型を使用して練習を重ねて球面に慣れておけば、もっとスムーズにモニター施術ができたのではないかと思います。
勿論毛流れが綺麗に書けるようになることが最重要事項です。
しかし毛流ればかりに集中して、いざ本番ではお顔のカーブのせいで練習していた毛流れが上手く書けない、ということにならないように準備しておきましょう。
アートメイクナース育成で重要なこと
ここから先は、私がアートメイクナースを育成するにあたり重要だと感じていること3つをお話ししたいと思います。
適正を見極める
始めたばかりの頃はアートメイクを続けていけるのかどうか、心の底では迷っているようなナースさんも多くいらっしゃると思います。
最近のアートメイク業界は、楽して稼げると思い転職を希望する方も散見されます。
実際は全くそんなことはないので、入ってみたらそのギャップを埋められずに悩んだり、あっという間に退職してしまうこともあるようです。
ここから考えるに、アートメイクアーティストになる為にはやはり向き不向きがあることは否めません。
私の講習ではまず最初に、その方の思うがままに眉毛の絵を書いて頂きます。それによりその方の絵心を判断します。大体の方が緊張で線が硬くなりますが、その中でもきちんと毛流れを意識して書いているかどうかを見ることが出来ます。つまり、適正を見るという事です。
もし、あまり絵心が無さそうであれば努力が必要である旨は先に話しておくようにしています。逆にセンスが有りそうなら、早く上達出来るであろうと伝えます。
前者の場合はかなり丁寧に修正をしていかないといつまでもデビューできずお互いにフラストレーションが溜まる一方です。
こちらからも密なコミニュケーションを図る必要があります。
後者の場合には大体の場合のみ込みがよく、スムーズにデビューまで向かっていきます。
お互い大人ですから、適正を聞いて頑張れるのか頑張れないのかはご本人次第です。
どちらのパターンだったとしても、指導者の働きかけ方でモチベーションを上げることは可能かと思います。
その為に、しっかりと信頼関係を築いておくことが重要です。
センスを見極める
上記の通り、アートメイクをするにあたり最も大切だと思うものはセンスです。センスと一口にいってもいろいろあります。
まず一つ目は美的センスです。
その方自身が例えばメイクがすごく上手であったり、お洋服のコーディネートが上手であったり、髪の毛のアレンジが上手であったり、そういったセンスです。今までの先輩や同僚を見ていると、大体の方が上記に当てはまっているように感じます。
二つ目は、器用さという意味でのセンスです。
メイクが上手にできたり眉毛が上手に描けたり髪がきれいにセットできたり、そういったものはたいていの場合手先が器用であることを大前提としていると思います。
柔軟性を見極める
上記2点をまず確認した上で指導を続けていくと、だんだんとその方の人間性や性格などが分かってきます。
アートメイクアーティストに必要とされる気質として、柔軟であることがかなり重要かと思います。
頑固な方、自分の意思を曲げない方、言ってることを聞けない方、応用がきかない方、同じことを何度も言われてしまう方、このような方々は習得のスピードが遅い傾向にあります。
言われたことをスポンジのように瞬時に吸収し発揮できる力があるかどうか、柔軟性があるかどうか、これはアーティストにとって大変重要なことです。
アートメイクナースを目指す方は現状見ている限り、新卒や1、2年目よりもやや経験を積んだベテランナースさんの割合が多いように思います。
そういった方ほど積み重ねてきた素晴らしい経歴をお持ちです。
しかし、もしそのプライドが邪魔をして成長が出来なくなってしまうとしたらどうでしょうか?
柔軟性と似たもので、素直さも必要なスキルだと捉えています。
年齢やナース歴が自分より下のナースに育成される場合もあるでしょう。
それに抵抗を感じる方。是非、その感情は成長過程において邪魔をする可能性があり、もったいない感情だということを理解していただけると嬉しいです。
ここまでは総論であり、そもそもの素質を判断するステップです。
各論に入ってくるともっと難易度が上がります。施術の内容に沿ってご説明していきます。
重要なアートメイクデザインの育成法
デザインの指導をするにあたり大体の方が時間の壁にぶち当たります。
アートメイクの一件あたりの施術は、私の場合開始当初で4時間位かかっていたかと思います。
そう思うと自分はだいぶセンスがなかったなぁと思いますが、早いアーティストさんで1.5時間、遅いアーティストさんでも2.5時間位が一般的かと思います。
その中でまず初めに時間を要するのがデザインです。
アーティストさんによって異なりますが、黄金比を出してその後眉毛の形を変えていくか、フリーハンドで書き上げていくアーティストさんもいます。
どちらの場合であってもなるべくシンメトリーを意識してデザインしなければならないのですが、始めた当初は左右対称に書くことが相当難易度が高いのです。
私も初めの頃はデザインだけで1時間以上かかっていました。
本来であればデザインに要する時間は30分以内くらいが理想的です。
なるべく早くデザインを仕上げるための指導をしなければなりません。
色々な考え方がありますが、個人的には横になってデザインする事はあまりお勧め出来ず、上体を起こしてデザインする事を推奨しています。
デザインは上体を起こして
横になった状態だと重力は後頭部側にかかるので肌もそちら側におちます。起き上がった状態だと重力が顎側にかかり、通常の人から見たたるみを呈します。
重力の関わり方によって肌の位置が変わるために、筋肉の使い方や骨格の強調のされ方も変わるのです。
ですからデザインは横にしてではなく、状態を起こして姿勢を正した状態で視線を固定し表情は一定のままでデザインすることをお勧めしています。デザインは骨格などを踏まえて似合うものを探っていきます。
はじめたての頃にやりがちなのは、必要以上に太くしてしまうことです。
この後に説明する針の入れ方も大切ですが、デザインで仕上がりの半分が決まるといっても過言ではないと思っています。
数年前に比べると段々と少なくなってきていますが、大ブームを巻き起こした韓国風平行太眉。これが本当に似合う日本人はかなり少ないです。それに加えて大抵の方は無理矢理目に近づけておかしなところに眉を書いていたりします。
眉毛は基本的には骨の上に生えているものです。お客様のご要望にお応えすることはとても大切ですが、指導するにあたってこの点は必ず伝えましょう。
アートメイク施術のベスト環境整備
施術する環境については、その方により好みがありますので私の場合は、というのもふまえてお話ししたいと思います。
ベッドの高さ
低め〜中くらい〜高めと、ざっとですがこの3種類に分かれます。
低めというのは膝と同じくらいの高さか、それ以下。中くらいはおへその辺り。高めは胸の下辺りと仮定します。
私がやりやすいと感じるのは中くらいの位置です。
低すぎると首を相当曲げて施術しなければならず、またそれと同時に腰〜背中にかけても大きく丸めて猫背のような姿勢になります。すると、首が痛くなったり、腰が痛くなったり、場合によっては頚椎の圧迫により手が痺れてきたりします。
高すぎると、肘を上にあげて肩〜肘までのラインが直線になるくらいまでの高さで腕を固定しなければなりません。すると、ずっと肩が上がっている状態になってしまうために酷い肩こりに悩まされる可能性があります。
上記のことより、私は大体中くらいの位置で施術することが多いです。
採光
クリニックによって天井照明はかなり様々です。シャンデリア、ダウンライト、蛍光灯などです。どの照明を使用されていても、必ず別途、アートメイク用のライトを用意しましょう。丸いリングライトと呼ばれる物が一般的です。
理由としては、天井照明のみだと暗くて手元が見えにくい可能性があります。
はたまた、電気の位置によっては自分の体や手が影になり、手元、つまり施術部位にちょうど影が映ってしまうこともあります。その為にリングライトが必要なのです。
リングライトは名前の通り丸いライトなので死角が無く、四方から照明が当たり手元が暗くならない大変便利な照明機材です。
もう一つのメリットとして、症例写真を撮る際に瞳の中に丸いライトが映り込むことで、モデルさんの撮影時の様な綺麗な症例写真を撮ることが出来ます。
まとめ
アートメイクナースを育成するというのは、言い換えれば一人の立派な職人を育て上げるのと殆ど同じようなレベルで難しいものです。
育成、教育する側のアーティストの考え、姿勢次第で、育つ人材は大きく変わってきます。
初めに覚えた癖はなかなか抜けないものなので、育成する側にも責任は重大です。
将来人気のあるアーティストに育てる為にも、言葉で、体で、正確な知識を伝える必要があるということをよく理解し、育成にあたる必要があると思います。